premium 本音の会 〜北村剛史出版記念ver〜報告会
2016年10月26日(水)に「Premium 本音の会〜北村剛史出版記念 ver〜」と題し、弊財団理事(宿泊施設品質認証総括)であり、グローバルスタンダー ドの宿泊施設の品質認証基準の整備に尽力されている日本ホテルアプレイザル取締役北村剛史氏の著書『ホテル・ダイナミクス-個人消費時代に抑えておく べき新たなホテル力学-』の出版を記念した講演会を弊財団会議室にて開催いたしました。
【18:00】講演会
慶應義塾大学大学院にてシステムデザイン・マネジメント研究の博士後期課程を取得された北村氏は、5年ほどまえに「週刊ホテルレストラン」にてシステムデザインでホテルを捉えることをテーマに連載をスタートしました。この連載は今日までにのべ200回を超え、これまでの膨大な原稿をまとめるべく、書籍化の話が持ち上がったのは実は一年ほど前だったそうです。
しかし、実際にはひとつのストーリーに仕上げるのに思いのほか時間がかかり、上梓まで10ヶ月以上の時間を要したとのこと。『ホテル・ダイナミクス-個人消費時代に抑えておくべき新たなホテル力学-』は、不動産鑑定評価とシステムデザインの観点で宿泊施設の価値判断手法の研究を続けられる北村氏の集大成といえる一冊です。
システムのデザインとは
システムの意味、価値、目的、機能、ダイナミクス、社会環境、地球環境 等、あらゆる要因の関係をバランスさせて、具体的な対象システムの構造を創造的にアーキテクティング&デザインするとともに、フィージビリティーを確実に評価することを表します。(出典:慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究室HP より)
宿泊施設の星の数とマズローの欲求段階説にはほぼ連動する
北村氏は慶應義塾大学で「ホテル・旅館の人格性、パーソナリティー」というテーマで研究活動に従事していた。これらの研究を通じて、宿泊施設の適正な経済価値を評価するためには、土地建物といったハードウェアに加えて、ソフトウェア、ヒューマンウェアが創造する「サービスを主体とした運営(=人格)」 に基づく評価基準が必要であるという視点に至った。
また、品質評価基準を整備するにあたり、ホテルの獲得する星の数と、人間の欲求を5段階の階層で理論化した「マズローの欲求段階説」はほぼ連動することが明らかとなった。
宿泊施設の星数 | マズローの欲求段階説 | 顧客が施設に求めるもの |
---|---|---|
☆ | 1:生存欲求 | 清潔感 |
☆☆ | 2:安全欲求 | 安全性、安心 |
☆☆☆ | 3:社会的欲求 | |
☆☆☆☆ | 4:承認欲求 | パーソナルサービス |
☆☆☆☆☆ | 5:自己実現 | 美意識への訴求、本物 |
品質評価項目の構成要素は、ハード5:ソフト3:人2
北村氏が手がける品質認定基準では、2016項目にのぼる評価項目を設けている。 インスペクションシート(品質評価項目)の構成要素はハードウェアが50%、ソフトウェアが30%、ヒューマンウェアが20%。世界中にはさまざまな格付けの基準があるが、その基準は常に「個人客の視点」で適正に見直しがなされて いることが肝要。海外では80%がハードウェアの項目であり、それでは顧客視点になり得ない。
また2016 もの項目を設けることで、鑑定士の私的なバイアスを排除する効果も期待できる。
国内においても施設の評価基準を明確にし、これが適正に運用されることで、宿泊施設を投資の対象として適正に評価することができるようになり、資産価値の評価にも貢献できる。
この実現には民間企業の努力だけでなく国土交通省、観光庁などとも協業し、行政のバックアップを得たうえで社会的な信用を確保することが重要だ。
体制が整備されることにより、ホテルは投資用不動産としての価値を持つことができるようになる。あわせて、宿泊施設側にも評価結果をフィードバックすることで、施設の生産性の向上に寄与しなくてはならない。
宿泊施設の所有と経営、運営はコンフリクトが生じる関係である
宿泊施設において所有と、経営、運営の役割はそれぞれコンフリクトが生じる関係であることを今一度明確にしておきたい。オーナーは投資回収効率の向上を、経営は宿泊施設の収益の最大化と従業員満足度を、運営は顧客満足と生産性向上の両立を目指すものだが、それらを追求するプロセスにおいては、それぞれが折り合わないことのほうが多い。そしてその対立軸があることが大事である。
【18:50】事務局長 伊藤との対談
続いて、弊財団事務局長の伊藤を交えて、事前に参加者の皆様から寄せられた質問にお答えいただきました。参加者も活発に意見交換に加わり、宿泊業界のプロフェッショナルが品質評価基準に寄せる期待の高さが顕著に現れたディスカッションとなりました。
- Q:ホテルをはじめ宿泊施設に融資する立場で、現場にヒアリングに行くときに必ず宿泊施設スタッフに聞くべきことがあったら教えていただきたい。
- A:鑑定士が評価を行う際、実は支配人をはじめ宿泊施設スタッフのインタビュ ーは行っていない。優秀な支配人であればあるほど、ネガティブな要素は口にしない。鑑定士がそれを直接ヒアリングしてしまうとバイアスになってしまうため調査は覆面で行うことにしている。
- Q:宿泊業界が産業の起爆剤となるためには何が必要か?
- A:膨らんでいる市場はインバウンドだが、本当の意味で受け入れる体制ができているとは言い難いのではないかと感じている。おもてなしの前に、ストレスを感じさせない状況を訪日客に提供することの方が求められている場合もある。 訪日客、国内の顧客を問わず、ストレスの要因となる主な要素は、チェックイン、チェックアウト時の混雑、朝食の混雑、エレベーターの遅さが挙げられる。ただし、効率だけを追求し、ロボット化をすればいいというものでもない。宿 泊施設に対する顧客の印象は、接客で変容することが可能で、これはスタッフの配置やシフト構成である程度コントロールができる。加えて、昨今は笑顔の重要性が徹底されていないように見受けられ、この点は非常に残念だと感じている。
- Q:2020年のあと宿泊施設の価値はどう変わる?
- A:当社の目標では2020年には品質評価基準が普及しているはずなのでこれを前提に答えると、その時点でリスクマネーと宿泊施設の結びつきが強固なものになっているはずである。適正なハードウェアの管理がなされ、人々のハートをつかむコンテンツを提供し、サービスが展開されることで、宿泊施設は価値を最大化できる。このために最も重要なことはプロフェッショナルなアセットマネジメント力である。
【19:45】懇親会
講演、対談の後は北村氏を交えて、業界のプロフェッショナル達による懇親会 が催され、盛会のうちにお開きとなりました。
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