民泊新法(住宅宿泊事業法)に関する意見書

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民泊新法(住宅宿泊事業法)に関する意見書

2017 年2月 24日
一般財団法人宿泊施設活性化機構

1.はじめに

 私ども一般財団法人宿泊施設活性化機構(略称 JALF)は、ホテル・旅館「業界」から宿泊「産業」と呼ばれるように社会的地位を向上させ、世界の Big5の一角を占める宿泊ブランドを形成支援することを最終目的としております。そのために、日本国における多様な活きた文化の発信基地である旅館・ホテルを持続的に成長させるべく、業界益ではなく、公益に根ざした業界広報活動を進めております。

 その一環として、昨年は「旅館業法に関する規制の見直し」について提言させていただき、この旅館業法改正に関する JALFの提言が、政府の規制改革推進会議における「旅館業規制の見直しに関する意見」にほぼ全て反映されました。

 それらの立場から、民泊新法に関する JALFの意見を下記の通りに表明いたします。

2.日本における観光振興の必要性

 政府や地方自治体の目的は「国民の生活水準の維持向上」であり、総人口も生産人口も減る中で、これを達成する必要があります。観光の外貨獲得額は自動車部品輸出額に匹敵する 3.5兆円に達しており、製品輸出には限界が見えた中で、国際収支黒字のためには金融収支と旅行収支の向上が最重要になっております。

 日本はすでに一人当たり GDPではアジアのトップではありません(アジアで4位、世界で 27位)。工業生産力を高め、通商国家として付加価値を創出するやり方だけでは一人当たり GDPがシンガポール並みに 5万$を超えることは不可能であり、日本の国民生活を向上させるには「観光しかない」のが現状です。特に観光の展開による地方創生と女性活用が重要になります。

3.観光客の動向と訪日外国人旅行者誘致の意義

 国内観光客は減少しています。総人口は減少し、国民の可処分所得は 2000年から 2015年で約 60万円減少し、期待されていたシニア層の旅行消費額も団塊の世代の高齢化が進む中で激減しております。したがって、国内観光客だけでは日本の観光地の 6割から 7割はそのうち消失してしまうと予測されております。

 これを防ぐためにも、訪日観光客(インバウンド観光客)を増やすしか方法はありません。政府は 2020年に訪日外国人旅行者数目標を 4000万人に設定しており、これはさらに 2100万人以上増加する可能性があります。

 この訪日外国人旅行者誘致には国益にとって、「ソフトパワーの強化」と「経済活性化」という二つの意義があります。前者は、国家外交を補完する「草の根交流の促進」、国際社会における「自己評価の向上」等からなります。後者は、訪日外国人消費による「経済効果」、国家・地域ブランド強化による「輸出競争力の向上」、日本のファンを増やすことによる「対日投資環境の向上」等があります。

4.民泊に関する基本的考え方

 民泊(住宅宿泊事業)とは「一般住宅に不特定多数の個人を泊めること」であり、新しい旅行経験として世界的に流行しています。日本でも Airbnbなどの民泊仲介業者の存在をベースに一般人が開始しております。JALFは、民泊は訪日外国人旅行者の多様なニーズの一翼を担う重要な宿泊施設であると考えます。

 ただし、既存宿泊施設は既存の法律に基づいた過大な設備投資を強いられてきており、宿泊事業分野への一般人の安易な参入は競争上不公平であると考えます。また、都市計画法における住宅専用地域において宿泊事業が安易に営まれることは、住民の良好な生活空間を維持管理するための法律趣旨に反しております。また、専門の宿泊施設ではない一般住宅等に宿泊する民泊には、利用者にも多様なリスクがあります。

 したがって、民泊に対しては「宿泊者の衛生・安全確保」「社会的安全確保」「健全な事業環境形成」の面で規制を実施する合理性があると考えます。

 ただし、現状では旅館業法上の違法状態で運営されている民泊事業者(住宅宿泊事業者)が多く存在しており、その運営レベルも千差万別です。

 それらの問題点を解消するためにも、民泊新法(住宅宿泊事業法)が早期に成立することを望みます。

5.上限日数制限には当面「賛成」

 民泊は住宅で営まれます。住宅は都市計画上11種の用途地域で建築が可能です。この中で少なくとも旅館業法上の宿泊施設の建設ができない4種の住宅専用地域においては、平穏な住環境を守るためにも日数の上限制限をするのは当然であると考えます。ただし、その場合においても、事業としての宿泊施設を維持管理するため、日数制限の下限は180日であると考えます。

 ただし、民泊が新法下で適切に運営され、その社会的認知度が上がり、民泊施設の周辺住民間で合意形成ができてきた際には、日数制限は徐々に緩和されるべきと考えます。

6.民泊事業者(住宅宿泊事業者、いわゆるホスト)の届出制には「賛成」

 宿泊施設として明らかに不適当な民泊事業者が存在し、社会的にも受け入れられていない現状に鑑み、「宿泊者の衛生・安全確保」「社会的安全確保」「健全な事業環境形成」を担保するために誰が民泊を行っているのかの把握が必要なのは当然と考えます。

 ただし、民泊は個人の住宅を他人に開放するところから始まっており、金銭を得るための事業よりは個人間の交流の側面を色濃く持っています。その個人の負担を減らし、民泊への参入障壁を下げるためにも、法律上は「登録」ではなく「届出」レベルにするべきです。

 自己の運営する民泊施設を利用させる価格や、その利用者を増やす施策などは民泊事業者が自ら考え、その利用者からのフィードバックを元に競争原理が働き、それが訪日外国人旅行者の多様なニーズに応える多様なサービスを提供する基盤になると考えます。

7.民泊管理者(住宅宿泊事業管理事業者)の登録制には「賛成」

 民泊事業者の負担を下げる以上、その運営レベルの担保に責任を持つ民泊管理者が必要なのは当然です。また、民泊周辺分野における健全な事業発展環境を形成するためにも、民泊管理者は必要です。

 この民泊管理者は一定の質の担保に責任を持たせ、違法な民泊を排除するために、登録制とするべきです。登録制とすることで、責任を果たせない民泊事業者を市場からの撤退させることができ、健全な宿泊施設としての民泊を社会に根付かせることができます。

 そして、周辺住民の不安を和らげるため、また、違法な無届の民泊施設との区別をするため、管理下の民泊事業者の運営する民泊施設には標識を付けさせるべきであり、その責任は該当物件を所管する民泊管理者が担うべきものと考えます。

 また、所管する民泊物件の上限日数制限の責任も民泊管理者が負うべきものと考えます。

 ただし、多様な背景を持つ民泊管理者による健全な競争環境を担保するため、他の法律における既存の免許制度に紐付けた登録制度運用には反対します。

8.民泊仲介業者(住宅宿泊事業仲介事業者、いわゆるプラットフォーマー)の登録制には「賛成」

 民泊は、Airbnbなどの民泊仲介業者のアイデアにより始まり、世界中で発展してきています。旅行者の新しいニーズを掘り起こし、ビジネスとして成立させている点について敬意を表します。

 ただし、日本における民泊仲介事業は厳密には旅行業の免許が必要であり、それを保有してない現状は違法状態と考えられます。

 現在、民泊仲介事業者は様々な事業モデルを用いた国内外の複数の業者が乱立してきております。民泊事業者がどの民泊仲介業者を選定するか、また訪日外国人旅行者がどの民泊仲介業者を利用するかは市場原理に任せればよいのですが、民泊を日本市場に定着させるためにも、日本の民泊事業者を顧客にする民泊仲介事業者を登録制とするのは当然です。

 また、日数上限制限を機能させるためには、民泊仲介事業者からの利用実績報告は必須となります。それがない場合、複数の仲介事業者を使い分けることで、日数の上限制限を免れようとすることを排除できません。また、それは民泊管理業者の報告する利用日数を確認するためにも必要です。それがない場合、民泊管理業者の日数の過少申告を排除することができません。

 ただし、民泊仲介事業者に対する規制は、宿泊施設としての民泊施設の適正運営に必要な最低限のレベルに留めるべきであり、ICTも含めた技術革新の状況に応じて徐々に緩和されるべきものと考えます。

9.最後に

 日本において、民泊は排除するべきものではなく、日本における宿泊施設の一翼を担うべきであり、合法的な社会的ポジションに適切に誘導することが国益に叶っています。そのために、民泊新法(住宅宿泊事業法)を早期に成立させるべきです。

 ただし、民泊新法(住宅宿泊事業法)が成立した際には、既存宿泊業者との不公平感の解消策として、下記を実行するべきと考えます。(1)既存事業者の固定資産税の税率を軽減(現行の約1/6程度)にすること。(2)建築基準法上では既存不適格である宿泊施設の増築や改装の際に、全建築物の一からの建築確認の再取得が必要とされているが、これを免除すること。観光立国日本の基盤を支えるインフラとしての宿泊施設のために、一般財団法人宿泊施設活性化機構(略称 JALF)はこれからも尽力させていただきます。

以上