Sunday,July 25, 2021

外国人観光客を獲得しよう!

月刊「飲食店経営」2016年11月号財団法人宿泊施設活性化機構事務局長 伊藤泰斗氏

株式会社アール・アイ・シー 月刊「飲食店経営」2016年11月号に財団法人 宿泊施設活性化機構事務局長 伊藤泰斗氏のインタビュー記事が掲載されました。

第22回 財団法人 宿泊施設活性化機構の場合

宿泊業の事業再生を数多く行った経験から
収益が挙げられ、公益に資する改革を推進する

 2016年8月の訪日外客数は、前年同月比12.8%増の204万9000人と、前月に続き200万人を超え、8月として過去最高となった(これまでの8月過去最高:2015年8月181万7000人)。また、累計では昨年より約2カ月前倒しで1500万人を超え、1606万人となった。
 国別では、バカンスシーズンを迎えたイタリアとスペインが単月として過去最高を記録。加えて、シンガポール、インドネシア、ロシアを除く15カ国が8月として過去最高を記録した。中でも中国は、単月過去最高となった7月の73万1000人に次ぐ67万7000人を記録。また、マレーシア、インドネシア、ベトナム、カナダにおいては、前年同月比20%を超える好調な増加となった。
*日本政府観光局(JNTO)2016年9月21日発表
フードサービス・ジャーナリスト 千葉哲幸

 今回は財団法人 宿泊施設活性化機構(以下、JALF)の活動内容と、その問題意識を飲食業がどのように参考にするべきか、ということを述べたい。
 JALFは2015年9月に「ホテル・旅館等を含む宿泊施設の活性化を推進されることを目的とした業界広報組織」を事業内容として設立された。
 事務局長の伊藤泰斗氏は、監査法人でホテル旅館事業の再生責任者を担当。ここでの伊藤氏のミッションは「事業再生」であった。担当するホテル旅館に「社長代行」ないし「総支配人代行」という肩書で派遣され、「黒字になるまで戻ってこられない」(伊藤氏)という業務である。
 伊藤氏はここで日本の宿泊業にとって大きな話題となった数々の事業再生を行っており、これらの業務経験から日本の宿泊業における問題点を追究するようになった。それが、JALF設立の原点である。伊藤氏はこう語る。
 「日本のホテルは海外に比べて収益性が低い。その原因を考え、効率に関する問題が非常に多いという結論に至った。例えば、旅館業法をはじめとしたさまざまな規制があることによって、諸外国に比べて収益性、労働生産性が低くなっているのだ。」
 宿泊業の事業再生に没頭する中で、宿泊業や観光に対する愛着も高まり、その改革のための行動手順を考えるようになる。
日本にとって観光は、外貨獲得の手段として非常に重要である。観光を考える上で宿泊は欠かせない要素であり、宿泊がしっかりしていないと観光は盛り上がらない。このような観点から法整備を含めて宿泊業の未来を考えられる団体をつくろうと考えた。
 さらに、外資系のホテルは収益性の高いビジネスとなっているが、日本系のホテルがうまくいっていないという現実について思いを巡らした。「それは、日本の宿泊業は圧倒的に右脳的な付加価値を考えるマーケティングやブランディングが弱いのです。その理由は、それを重要視しない体制があるからです。だから、左脳的(合理的)な割引販売しかできないのです。さらに、ナレッジシェアができていない。例えば外資系ホテルチェーンの場合、Aホテルにうまくいった事例があれば、それを本部が吸い上げて、他のグループホテルにローカライズ、カスタマイズして応用してみることを提案します。たとえささいなことであっても頻繁に行われている。だから外資系ホテルは強いのです」
 日本の宿泊業においてそのあるべき姿が機能していないのであれば、「業界全体の臨時政府のような形で、ナレッジシェアの中核に立とう」と伊藤氏は考えた。

関連の法整備とナレッジを推進する

 JALFのホームページを開くとトップページにずらりと、40人ほど著名人の顔写真が掲載されている。彼らは、宿泊業、飲食業、サービス業の実務家の中でリーダー的な存在であり、またこれらの業界の研究者、識者といった重鎮の面々である。彼らを見ていると、伊藤氏が築いてきた人脈の広さを感じると同時に、これらの人々の英知を結集することによって、日本の宿泊業は伊藤氏が理想とする形に変革を遂げることができるのではと思わせる。
 JALFでは、彼らがスピーカーとなるセミナーを随時開催して、会員相互の啓発と改革の機運を高めている。
 「JALFを立ち上げる前に、彼らに私の問題意識を投げ掛けたところ、皆さんがそれに賛同してくれた。自分が考えた方向性は間違っていない。『あとは、やるだけ』と思いました」(伊藤氏)
 その「やるべきこと」はまず、法整備である。それは業界の既得権益のためではなく、あくまでも公益のために行うことだ。そして、ナレッジの活性化である。これにより日本の宿泊業をまさに収益が上がる業界に押し上げていこうとしている。
 ちなみに宿泊業界には「レベニューマネジメント」という考え方がある。それは「需要予測を基に、販売を制限することで、収益の拡大を目指す体系的な手法」ということである。
 辞書の解説を以下に引用しよう。
 「在庫を翌日に繰り越せないビジネスにおいて、需要を予測して収入(レベニュー)の最大化を目ざし、適切な販売管理を行うこと。イールドマネジメントともいう。1日当りの供給可能な数量が決まっているサービス業では、需要動向により完売して欠品状態になることもあれば、大量の売れ残りが生じることもある。このうち、おもに売れ残りを防ぐための管理がレベニューマネジメントで、売れ残ったものを投げ売りするのではなく、あらかじめ時機に応じた複数の価格を設定するなどして販売することにより、企業の収益を最大化する」(日本大百科全書)
 JALFでは「JALFアワード」を設けており、その第1回の「レベニューマネジメント賞」をAPAホテルグループに授賞した。同ホテルグループは400ホテル近く6万室超と急成長を遂げているが、その躍進の背景には需要期における客室販売のコントロールと価格設定にある。過去の常識では狡猾だとやゆされる手法であるかもしれないが、同ホテルグループの手法には利用客が存在しており、まさに硬直化していた日本の宿泊業の発想を打ち破るものだ。
 JALFは会員制によって運営されている(年会費1万800円)。会員向けのサービスは、JALFのミッションに基づき多岐にわたる。それは「情報統計」「業界広報」「改善支援本部」「金融対策」「人材育成」であり、個別の事業支援として、宿泊・FB(飲食部門)マーケティングや管理部門のオペレーションなどである。

ターゲットとする国のジャパンブームを活用

 訪日外国人客対策について話題を移そう。
 伊藤氏は、日本の宿泊業が訪日外国人客(インバウンド)を集客する上で注意するべき点は、日本人と外国人、またビジネス、レジャー客の比率だと指摘する。伊藤氏が理想とするインバウンド比率は「18%」で、これを日本人レジャー、日本人ビジネス、インバウンドレジャー、インバウンドビジネスと分類してポートフォリオを組み立てることを推奨する。
 また、インバウンドの動向を国別で見ていくと、訪日観光が盛り上がる時期が異なっている。例えば、インバウンドの大半を占める大中華圏を見ると、春節は国によって日にちが異なる。これらをうまく結び付け、日本の閑散期とつなげることによって、稼働状態を平準化することができる
 さらに、曜日的なコントロールについて。これは、日曜日の夜は、日本人だけでは全く埋まらない。そこで、「レベニューマネジメントの領域となるが、連泊で日曜日が取れるのであれば、そこの一定層をインバウンドで埋めていく。日曜日だけ優遇価格で取っていって、全体として安く見せていくという方法が考えられる」(伊藤氏)という具合に、ナレッジを提案する。
 これは飲食業に大いに関連することだが、伊藤氏は「収益向上のおもてなし」を指摘する。それはまず、公式サイトおよび店舗での多言語化である。次に、公式サイトでは、ターゲットとする国の人々に向けて、その国民性や今日的な日本ブームの動向を捉えて発信することが効果的だと述べる。
 「日本の飲食店が、自店の料理を分かりやすく画像にしていると認識していても、それを見る国民性のよって捉え方は異なります。ですから、公式サイトではターゲットとする国の人になじみやすいカラーバランスにする。今、パソコンソフトである程度の色調調整ができます。これもインバウンドの大半である中華圏を想定したほうが有効と考えます。また、ホテルの場合『コンビニまで徒歩30秒』という表示をするよりも『プレミアムロールケーキで人気のローソンまで徒歩30秒』と言い換えるだけで大きな反響を呼んで、稼働が飛躍的に向上するというケースも報告されております。」
 これは中国のブログやSNSでローソンが販売している「プレミアムロールケーキ」が人気であること調査し、そのニーズに合わせてキャッチを発信することに成功した事例である。このようにターゲットとする国の「ジャパンブーム」を正確に認識し、取り入れることは重要なことである。
 さらに、シティホテルを利用する個人旅行客にとって、街情報のキーマンとなるコンシェルジュの存在が重要であるが、近年ではコンシェルジュを置かないところも増えてきた。理由は、現代においては、コンシェルジュの情報よりも、Web情報の方が詳しいからである。その結果、インバウンド客に自店の存在をアピールするためには、宿泊施設への働き掛けよりも、トリップアドバイザーのステッカーを店頭に掲載したほうが有利になるという状況が生み出しているようだ。

シティホテルが最上級でなくなる日

 宿泊施設の需要は、個人旅行客が増える傾向の中でホステルに象徴されるように安宿の需要が増えて、定着していくと想定している。
 一方、富裕層も伸びている。
 「これは香港人が顕著です。香港人が5人いたら、そのうちの1人は日本訪問10回以上。このような人は、東京・大阪はもとより政令指定都市のほとんどに行った経験があります。『次に面白いところはない?』という具合に、富裕層はどんどん地方に行きます。そういう点では地方における高級な宿泊施設はインバウンドで成り立つ可能性はあります」(伊藤氏)
 また、伊藤氏は「欧米系の個人旅行客の富裕層が宿泊に求める機能が変化してきている」ことを実感している。
 その現象として。東京・蔵前にある「Nui」の人気を挙げる。ここは かつて縫製工場だった所をそのままゲストハウスとして活用しているものだ。宿泊料金は、2段ベッドの相部屋で1泊3000~5000円という部屋があれば、8000円程度の個室もある。
 宿泊施設としては非常に質素であるが、1階のラウンジスペースは時間帯によってカフェからバーに切り替わる。凝ったデザインではなく、かつての倉庫の様子を残したナチュラル感のある空間を演出している。
 「Nuiにいると、富裕層が抱く価値観が変わりつつあるように思えます。例えば、かつてのジェントルマンは自分では何もやらないという存在でした。何かしてほしいことがあったらバトラーを呼べば済んでいましたから。それが、ジェントルマンであっても自分で行うことがトレンドになっているようで、そこでの非日常感とかアクシデントが面白いと感じているようです。それは働く人も同様で、皆身なりが自然体で、ここで働くことが面白いと感じているということがひしひしと伝わってきます」
 このような環境を楽しんでいる富裕層の動向から、飲食業を含めさまざまなサービスでの発展性が見込まれるのでは、と伊藤氏は予測する。そして、このように語る。
 「これまで、シティホテルのサービスが最上級と思われているところがありましたが、そうではないとされる時代が今そこにあるような気がしています」
 さて、「宿泊業界における2020年以降」はどうなると伊藤氏は見ているか。
 「まず、2020年以降は、インバウンドは減らないでしょう。今観光庁がインバウンド対策にかけているエネルギーは、現在そして2020年よりも、2020年以降にかけています。ですから、JALFのミッションである法令整備とナレッジを早く進めて、公益にかなうインバウンド対策に寄与します」
 伊藤氏の宿泊業の改革に挑む姿勢が、日本を観光立国として前進させている。

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